2000年8月のお話

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宝剣のゆくえ(中国)「いて座」
 いて座は、私たちの銀河系宇宙の中心の方向にあたっているので、 ここの天の川は、幅が最も広く光もきらびやかで、夏の夜の美観となっています。 そして、矢の附近から南斗の柄の上の部分は、星団や星雲がきわめてたくさんあります。
 晋の国に張華という将軍があって、呉の国を攻めようとしました。 そのころ、斗牛の方角に、毎夜紫の気が立ちのぼるのが見えました。 斗宿と牛宿とは呉の国をつかさどっていたので、天文を知る者に尋ねると、  「呉は今、運がひどくさかんです。まだ征伐に行われる時ではありませぬ」 と答えたそうです。 張華は強い自信があったので、それを聞かずに呉に攻め入り、 ついにそれを亡して、その功によって広武候となりました。 しかし、その後も斗牛の方角の紫の気は、いよいよ明るくなってきました。 張華は領地の予章郡に住む雷煥(らいかん)という者が天文の名人であると聞いたので、 邸によんで泊らせ、その夜共に褸に上って、星をながめさせました。 雷煥はしばらく四方を見わたしていましたが、  「あの斗牛の間に立ちのぼっている気の下には、宝の剣が埋まっております」 といいました。 では、どこにあたるかと尋ねると、「予章郡の豊城県です」と答えたので、 雷煥をそこの知事にしました。 雷煥はそこに行くなり、監獄の土台の下を掘ってみました。 すると石の棺があらわれ、中に二ふりの剣がはいっていて、 その銘に、それぞれ竜泉(りょうせん)、太阿(たいあ)とありました。 これは昔、千将(かんしょう)・莫邪(ばくや)という夫婦の者がきたえて、 天下に聞こえた名剣でしたが、その後は行くえ不明になっていたものでした。 その夜から紫の気が消えました。 雷煥は張華に一ふりの剣をおくり、一ふりは自分のものとしました。 ある人が、   「夫婦できたえた二ふりの剣を分けるのはよろしくありますまい。    張公は、それに気づかぬ人ではありません」 と注意すると、雷煥は、   「いや、近いうちに国が乱れて、張公は命をおとされる。    この剣はそのあとで、張公の墓にかけるつもりじゃ。    どのみち、霊のある宝剣だから、永くは人間のもとに留まってはいないだろう」 といいました。 張華は剣を受けとると、雷煥に手紙で、 「剣の銘をよくしらべたら干将の作だった。それなら莫邪の作も送って来なければならぬはずだ。 しかし宝剣のことだから、いずれ三つが一つに合うことがあるだろう」といいました。 その後張華は趙王にうらまれて殺され、それと同時に竜泉の名剣もまたゆくえが知れずになりました。 雷煥もやがて死んでしまいましたが、その子供が太阿の名剣を帯びて、延平の渡し場にかかると、 剣がひとりでに腰からおどり出て、川の中へ落ちてしまいました。 人をやとって水の底をさぐらせましたが、剣は見つからずに、 二匹の竜がからみ合って文字の形になっていました。 そして、たちまち、まぶしい光が水を照らすと、波が大山のようにさか巻いて、 竜は天に昇っていきました。
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