2000年5月のお話

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さびしき星は柳の宿(アラビア・中国)「うみへび座」
春の夜、かに座の星団の南15度のところに、三等星・四等星、5つの星が、 こぶしを握ったような形に見えるのが、うみへび座の頭になります。 確かに「へび」が小いぬ座のアルファ(プロキオン)をうかがっているように見えます。 それより下って、しし座のアルファ(レグルス)の西南に、ぽつりと赤くかがやく 2等星がうみへび座のアルファで、名前を「水蛇の心臓」といいます。 また、アラピア語でアルファルドといって、「さびしい星」という意味になります。 この星の印象をよく現しています。 それより東南へは、こまかい星がとびとびに続いて、へびの長さを示しています。 しし・コップ・からす・おとめ座の南を過ぎて、さそり座の近くでようやくおわっています。 星座の全長は95度で、天球の周りの約4分の1にの長さがあります。 日本の星座では「うみへび」といいますが、ラテン名の「ヒドラ」はギリシャ神話の怪物・水蛇のことです。 これは古くバビロニアの彫刻にもその姿を見ることができます。
ヒドラは、レルナイアのアミモーネの沼の近くに住んで、9つの首から毒気を吐き散らし、 あちこちの村を襲っては、人や家畜を食べていました。 へラクレスは、化けじし(しし座)退治に次ぐ第2の冒険として、この怪物も退治する約束でした。 彼は、おいのイオーラオスを連れて、その暗い陰気な谷間に入りこみました。 ヒドラは洞穴から舟ほどもある長いからだをあらわして、9つの首をすっくと立てて毒気を吹きかけました。 それよりも速くへラクレスは、松やにと「ゆわう」につけた糸を巻いた矢を射かけましたが、 効き目がないので、太いこん棒をふるい、首を1つひとつ打ち落しました。 しかし、1つ落ちると、すぐ2つの首が生えて出るので、きりがありません。 さすがのヘラクレスも、これには全く困ってしまいました。 そこでイオーラオスは考えて、近くの「やぶ」に火をつけました。 そして、へラクレスがヒドラの首を打ち落すそばから、たいまつでその傷口を焼きました。 そのため首がはえることができなくなりました。 最後の一つの首はどうしても死なないので、ヘラクレスはそれを打ち落して大岩の下に埋め、 ようやくこの怪物を退治しました。 ヒドラの血は、それに触れた者はたちまち死ぬほどのおそろしい毒でした。 ヘラクレスは矢の根をその血に浸しました。 以後、彼の矢面に立つ敵はいませんでしたが、これが後に馬人ケイローンを殺すことになってしまいます。  うみへび座は、非常に長いので、西洋でも昔は3つ、または4つの星座に分けたことがあります。 中国でもおおむね三つの星宿にわけ、頭の部分を柳宿と呼んでいました。 柳の枝の巻いた形と見たのです。 昔、唐の詩人白楽天は、長安の都の氷豊街にある柳の枝が春風に吹かれて、 やわらかになびいているさまを詩に歌いました。 それが、非常に美しい詩だったので、都の人たちがさかんに歌い、宣宗皇帝の耳にもはいりました。 そこで帝は、氷豊街の柳をわざわざ宮中に移し植えさせました。 白楽天はそれに感激して、さらに詩を作って、 「天もこれに感じて、この後、柳宿の星に柳の枝がふえるにちがいない」と歌いました。 中国ではまた、この柳宿の形を鳥の首と見て、朱鳥と呼んでいましたが、 これは鳳凰(ほうおう)で、アルファの星の色が赤いことから来ているといわれています。
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