2000年1月のお話

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夜空を焼き焦がす星シリウス(ギリシャ・エジプト) 「大犬座」
 オリオンの三つ星を結んだ線を東南へ約30度引くと、青い星がらんらんと輝いています。 これが大犬座のα(アルファ)で、1等星の王者、ギリシャ名のシリウスです。 大犬の姿は、この星を三角形の頭の口に光らせ、その西に、三つの2等星(エータ・デルタ・エプシロン)の 作る直角三角形が尾を現しています。 この大犬は小犬座と共にオリオンの猟犬で、詩人ホメロスも、「オーアリオーンの犬」と歌っています。 星座としては、ギリシャではキオーン(犬)と呼び、ローマでもカニキュラ(犬)といっていました。  しかし神話では、これは月の女神アルテミスの侍女プロクリスの犬となっています。 プロクリスの夫ケファロスは、あけぼのの女神アウロラに愛されてしまい、 天界に連れ去られてしまいましたが、ケファロスはそれを嫌がって、若い妻のところへ帰って来ました。 女神は怒って、今に思い知らせてやると言いました。  プロクリスは、あるじの女神アルテミスに愛されて、狩りにつかう犬と投槍をゆずらました。 それをプロクリスは夫に与えました。 この犬は大変すばしこくて、その国で最も早い狐と駆けくらべしても勝負がつかないほどでした。 大神ゼウスはそれに感心して、犬を天に上げて、この星座にしたそうです。  後に、ケファロスはアウロラの呪いで、妻を獣(けだもの)と見あやまり、 妻からもらった投槍で殺してしまった。  他の神話では、これはアクタイオンを食い殺したスパルタ犬ラィラプス、または、 冥土の門を守る首三つの犬ケルベロスとも見られています。
 しかし、この星座を最も有名にしているのは、アルファのシリウスでしょう。 全天21の1等星の第1位で、光度マイナス1.6等、標準1等星の13倍の光を放ち、 温度は摂氏11,000度にもなります。しかし、直径は太陽の約2倍、距離八8.6光年で、 日本の緯度では最も近い星である。(地球に一番近い星はケンタウルス座のアルファ星です。) シリウスの名は、ギリシャ語のセイリオス(焼きこがすもの)からきています。 そして、この星が太陽より先に昇る7月13日からで8月11日までを「犬の日」と呼び、 草木が枯れ、穀物のしおれる炎暑を、シリウスと太陽の仕業として、ローマ時代には 赤犬を生けたえにして、厄はらいをしたそうです。 また、「犬の日」の間は子供たちは泳ぐのを禁止させられていたり、川の水を飲むと病気になるか、 足にミズムシができるといわれていました。  中国ではシリウスは狼または天狼である。 これは大犬とは関係はありませんが、 近くに野鶏(やけい)という星があり、それをねらう位置にあるための名です。 その昔、鋭いきらめきを、狼の目と見たのかも知れません。 詩にも「天狼夜血を流す」というような句がありますし・・・・・。 また、狼が色をかえると、盗賊が起るとか、賊兵が攻めこんでくるといって恐れていました。 そして、大犬の星の三角形(日本名、くらかけ星)の附近の星をつないで、弓に矢をつがえた形とし、 これを狐矢(こし)と呼んで狼星を射っているとも見ていたようです。  昔のインドでは、シリウスはムリガ・ヤードハ(しか殺し)で、 これが、しかの形のプラジャパーティ(オリオン)が、ロヒニー(おうし座アルファ)を 追いまわしているのを射殺したと伝えています。  古代のエジプトでは、シリウスは夏至(6月20日)の日の出前に、日神ラーの光と まじって東に昇り、それが国土の母といわれるナイル川の増水と同じ時期に当たるため、 非常に崇拝されて、ツティス(水の上の星)と呼ばれていました。 この日がエジプトの元旦で、日本ではこれを狼星年、または緑星年と訳しています。 エジプトでも、時にシリウスを「犬」と呼んでいました。これは忠実な犬が吠えるように、 ナイルの増水を知らせると考えられたためらしく、1月の月名もトートといっていました。 シリウスは神としては、犬の頭の冥土の神アヌビスの精と見らていました。 神殿の壁に、アヌビスが両腕に鍋を抱え、足に羽をはやし、へびや、亀や、がちょうを つれている画が残っていますが、これはアヌビスがナイルの水が増してきたら、 急いで家具をまとめ、家畜を連れて立ち退きなさいと、戒めているもののようです。 シリウスはまた、女神イシスの星とも見られていました。 これはエジプトで、夜明けの美しい星を愛と生命の星と考えたためで、 かつ、イシスとナイル川とは、オシリスの神話(おとめ座)で深い関係がありました。 それで、この女神を祭ったデンデラー初め5つの神殿は、元日の朝昇るシリウスに向けて建てられ、 その光が本尊の目にあたるようになっていました。 特にデンデラーでは、シリウスを「デンデラーの女王」と呼んでいたということです。
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