1999年5月のお話

StarStoryへ
北斗と豚 「おおくま座・北斗七星」(中国)
大ぐま座は、有名な北斗七星を中心とする北天の星座です。 「斗」は中国の水を入れる道具で、4つの星の四辺形を「ます」。 それにつづく、やや曲曲がった3つの星の列を「柄」と見ます。 南にある南斗(いて座)に対して北斗といっています。 「ます」のへりの2星の間隔は、角度にして5度あり、これを結んで口の開いている方へ、 その長さの約5倍延長すると、北極星にとどきます。そこで、この2星を「指極星」といいます。 学名では「ます」の角から「柄」のはしの星までを順に、アルファ・ベータ・ガンマ・デルタ・ エブシロン・ゼー夕・エータと呼び、ちょうどギリシャ文字の順になっています。 真ん中のデルタだけが3等星で、残りの6つは2等星です。 「柄」のはしから2つめのゼータを見ると、小さい星がくっついているのがわかります。 これは5等星で学名をg(ジー)といいますが、普通はアラビア名でアルコル(乗り手)といいます。 北斗七星は、日本の中部以南では、冬の夜にしばらく沈みますが、他の季節には晴れてさえいれば 毎夜、北の空に見えて、北極星を中心に時計の針と反対の方向へ廻っています。 そして、地球が太陽のまわりを公転するにつれ、毎夜少しづつ位置がずれて行くので、 春には北の天頂高く横たわり、夏から秋には、西北の空から大ぎなひしやくをぶら下げ、 しだいに低くなって行き、冬には地平線をくぐって、やがてまた東北の空からのび上がって来ます。 こうして北斗は、1日については大まかな時間を、1年については季節の変化を、 また、北極星を指さして、真北の方角を教えるので、昔から北半球では、どこの国民もこの7星を 大切な星として仰いでいます。 そんなことから、神話や伝説も非常に多い星座です。 そんな神話や伝説の中から、中国のお話を2つばかりご紹介しましょう。
唐の開元(かいげん)といった時代に、一行(ぎょう)上人という高僧がありました。 天文や暦の学者である上に、仙人となる術にも通じていたので、時の天子玄宗も大そう敬われて、 天師という号をさずけられました。 ある時、一行が住んでいた渾天(こんてん)寺という大寺へ、一人の老婆がたずねて来ました。 王婆という名で、一行が貧しかったころ、大そう親切にしてくれた人なので、喜んで迎え入れると、 「せがれが、人殺しのおうたがいを受けて裁判が長びいています。 どうぞお上人のお力で助かるようにして下され」と頼んできました。 一行も、これには困って、「一国のおきては、わしが口ぞえしたとて、とても曲げさすことはできぬ」 と断りました。老婆はすっかり失望して、「なさけ知らず、恩知らずの坊主め」と、 ののしって帰ってしまいました。 そのあとで、一行はしばらく考えこんでいましたが、やがて寺の一室に大きな瓶をすえさせて、 それから2人の寺男をよび、「この町の向うのかどに、荒れはてた庭がある。そこへ出かけて、 隠れていなさい。すると、昼から日のくれまでの間に、やって来るものがあるから、 頭からこれをかぶせて、ひとつのこらず捕えてくるのじゃ」といって、大きな布ぶくるを渡しました。 寺男たちは、いいつけどおり荒れ庭へ行って隠れていると、どこからともなく異様なものが七匹 入り込んで来たので、すかさず布ぶくろをかぶせました。 中からは、「ブウブウ」と豚の鳴く声が聞こえました。 引きずって寺に帰ると、一行は7匹とも用意した大瓶の中へ押し込めて、 木蓋をかぶせ、泥で封じてしまいました。 あくる朝、玄宗の使があわててやって来て、至急のお召しでござると伝えた。 ご殿へ上がると、玄宗は心配そうに、 「天文博士の申し出たのでは、北斗七星が昨夜にわかに見えなくたったとのこと。  何か不吉な前じらせではあるまいか」 と云われた。 一行ぱ衣のそでをかき合わせて、 「それはゆゆしき一大事でござる。 昔、魏の時代に、けいわく星(火星)が消えうせたという  話はござるが、北斗七星が消えうせたとは聞きも及ばぬ天変。  おそらく、人を殺したという無実の罪で、お裁きがひまどっておる者があり、  そして、それを天帝が怒られておるにそういござりませぬ」 と答えた。 玄宗は驚いて、さっそく王婆のせがれを牢屋から放たせました。 一行ば渾天(こんてん)寺に帰ると、すぐ大瓶の蓋をとりのけました。 豚は1匹、1匹と飛び出して、天へのぼって帰って行きました。 その夜、天文博士が、ご殿へまかり出て、「ただ今、北斗七星が一つ、空にあらわれました」と 申し上げた。玄宗は「ほっ」として、「ありがたや、天帝のお心がとけはじめたと見ゆる」といった。 それから、毎夜1個づつ北斗の数が増して、ついに7つの星が出そろい、 玄宗もようやく安心しそうです。  この話のほかにも、宋の時代に、徐武功という男が、北斗七星を信心して、その精の豚を決し て食べませんでした。 ある時、徐が無実の罪で法廷へ引き出され、 いよいよ死刑の宣告が下ろうとすると、にわかに大風が吹きおこり、雷が鳴りはためいて、 どこからともなく豚のようなものが7匹あらわれ、法廷の上にうずくまりました。 そのために、徐は無罪になったという伝説もあります。  また、これば豚ではありませんが太宗の時代に、七人の和尚が、どこからこもなく西京に現れて、 酒を飲み歩いたのですが、同時に北斗七星が空から光を消したので、 この7人は北斗の精にちがいないと、太宗が召して酒を飲ませようとしましたが、 たちまち姿をかくしてしまい、その夜から再び北斗がかがやき出たという伝説もあります。
おおくま座 M97(ふくろう星雲)とM108 北斗七星のβの近くに見えます。 左下の丸い星雲がM97で、右上の細長い星雲がM108です。
 こういうふうに、中国には、星が人になったり、動物になったりする伝説はめずらしくありません。 有名な水滸伝の108人の豪傑が、伏魔殿を破って八方へとび散ったのは、天こう星、地さつ星の 生まれかわりとなっていますが、これも北斗七星のことです。 また、7星の中の或る星が散ると竜馬になり、或る星は虎となり、或る星は猪になったりします。 甚だしいのは、薬用の人参となって、その生えている土地の空には紫の気が たなびくなどともいわれています。
StarStoryへ