1999年3月のお話

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美しく強い星 「金 星」
金星の燦爛たる光と、夜ごとに変る動きには、どこの民族にも早くから注目していました。 したがって神話やに説も最もゆたかです。古代バビロニャ・アッシリアでは、 天の女王また愛の女神としてあがめられ、ギリシャでは同じく美と愛の女神アフロディテー、 それを伝えたローマではウェーヌスで、英名ヴィーナスはこれからきています。 中国では金星とも太白ともいい、初めは宵ノ明星と暁ノ明星とを別々の星と考えて、 長庚(ちょうこう)、啓明(けいめい)と呼びわけていました。 唐の詩人李太白は生まれた時に、母が長庚星が懐に入ると夢みたために、こう名づけられたようです。 ギリシャでも古くはへスベロス、フォスフォロスと呼びわけて、 それが同じ星であることを知ったのは、哲学者ピタゴラスであると伝えられています。 金星 VENUS 軌道長半径   0.7233AU 軌道傾斜角   3.395度 赤道傾斜角   177.3度 赤道半径    6052km 質量(地球=1) 0.815 平均比重    5.24 衛星数     0 公転周期    224.70日 離心率   0.0068 自転周期    243.01日 視半径   30.16″ 極大光度   -4.7等級 扁平率     0 会合周期   584.0日 古代バビロニアでは、金星は女神イシユタルと呼ばれましたが、強く輝くときには、 その光を「ひげ」と見て「ひげのあるイシュタル」と呼び、ひげのない時を不吉としていました。 そして、惑星の中でも、天の女王としてもっとも崇拝して、毎日の出入りを記録し、 早くから「宵の明星」と「暁の明星」とが同じ「イシュタル」であることを知っていました。 この女神については、若く美しい農業の神、星の羊かいのタンムズを愛して、その死を悲んで 冥士まで後を追っていった神話が有名でしょう。  イシユタルが冥土の門にたどり着いて、「開け、開かねばたたき被っても通る」と叫ぶと、 門番は驚いて女王アラトゥに知らせました。アラトゥはひどく怒って、「天の女神であろうと、冥土の おきてに従わなければ通さぬ」と、門番に答えさせました。 それでイシユタルは、第一の門では玉のティアラを取られ、第ニの門ではイヤリングを、 第三の門ではネックレスを、第四の門ではブローチを、第五の門では玉の帯を、 第六の門では手と足の飾りを、第七の門でば衣をはぎ取られて、玉のような裸になってしまいました。 しかし、この天の女王は、冥土の女王の前に、誇らしげに立ったのでした。 アラトゥは歯がみをしてくやしがり、疫病の悪魔ナムタルに、イシユタルの全身をむしばませたのでした。 さすがの女神も瀕死の状態になってしまいました。 それで、地上の花はしぼみ、草木はたちまち枯れはじめたので、神々は驚いて、 日の神シャマシュにそれを知らせました。 シャマシュは、父なる月の神シンと、海の神エアと相談しました。 そこでエアは、獅子と人間の怪物ナドゥシュ・ナミルを造って、 冥土の七つの門を破って通る力を与え、アラトゥのところへおもむかせました。 冥土の女王は胸をうち、指をかんで怒りましたが、この怪物にはとてもか敵わないので、 イシュタルに命の水を飲ませて、もとの美しいからだにもどらせ、七つの門を出るごとに、 衣や玉飾りを渡しました。 しかし、女神は玉飾りを、タンムズの傷を治す代として、ナムタルに与えたと伝えられています。 また日本ではこんな話が伝わっています。 広島地方で金星を「きぬ星」、または「きぬや星」というそうです。 そして昔、美しい絹屋の娘が、「私が亡くなったら、天に昇って星になるから、絹をすかして見て下さい。 九つにわかれて見えますから」といって死にました。 それが金星で、この星だけは、絹をすかして見れば九つに見えるといいます。 それで、広島地方には、   << 天に昇るげな絹屋の娘、星になります絹星に >>   << 高い天の星や絹屋の娘、絹でおがめぱ九つに >> という唄があます。 また愛媛地力でも「きぬ星」と呼んで、大三島に、   << わたしゃ九つ絹屋の娘、星になるから見ておくれ >> という唄があるそうです。 さらに、島根県鹿足郡でも、宵の明星を絹ごしに見ると、九つに見えると、言い伝えられています。 同県邑智郡では、「いときぬ星」といっていたそうです。 また、岐阜県地方にも、   << 宵の明神さま絹屋の娘、絹でおがむと九個の星 >> という唄があるようです。 東京都八王子附近で、子供の頃には、宵の明星をよく絹ですかして見た、 という老人もいたそうですが、伝説は伴っていないようでした。
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