1998年10月のお話
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ポセイドンの怒りとカシオペア王妃
  秋の星の話といえば、エチオピア王家の星座が有名です。  そこで今月は、ケフェウス王の后「カシオペア」のお話です。   カシオベア座は、2等星と3等星の5つの星が描く、  きれいなWの形で天頂に昇るとMになるので、日本でもW星・M星として知られています。  北極星をあいだにはさみ、北斗七星とほぼ等距離で相対しています。  北斗がひくい冬の季節には代って高く北に昇り、その角の2等分線で北極星を指さしています。   また時刻をも教えるので、昔から航海の大切な星でもありました。
  カシオペヤは、ギリシャ神話の有名な女王の名で、星図には、この女王が椅子にかけて、  驚いたように両手をあげている形にえがかれています。   カシオペアは、古代エチオピアの王ケフェウスの后で、  ニ人の間にアンドロメダという美しい王女がありました。  彼女は結構「親ばか」だったようで、娘(アンドロメダ)をかわいがってはいたのですが、  その娘を自慢するあまりに、「海の精女たちも、アンドロメダの器量にはとうてい及ばない」  とつい言ってしまいました。  そうすると面白くないのが海の神「ポセイドン」です。  程なくエチオピアの海岸に津波が打ちよせて人家を流し、また恐ろしい海の魔ものが出没して、  子供たちをさらい、牛や馬までも海に引きこんだりするようになりました。  国王夫妻は心配のあまり神に伺いを立てると、王妃の高言を海の神が怒ったためと知れました。  そして、それをなだめるには「王女を人身御供にしなければならぬ」とお告げがありました。  こうして、可哀想にアンドロメダ姫は、「化けくじら」に捧げられてしまいます。  しかし、ベルセウス王子に助けられ、九死に一生を得ます。  「アンドロメダ姫」はペルセウスの求婚を受け入れて後に彼のお后になったということです。  娘のアンドロメダが、あんなにも怖い思いをしたのに、  この事件の元になったカシオペアはどうなったかというと、  椅子に腰かけ両手を高くあげたまま、日に1回、北極のまわりを廻る運命となって今に及んでいます。  これは、この星座がいわゆる周極星の一つで、地平線より下へかくれない事実から生まれた伝説でしょう。  そして、Wを「女王の椅子」と呼ぶこともあります。
カシオペア座の二重星団 (N869・N884)
  このお話で、一番可哀想なのは「アンドロメダ姫」ですが、  一応は「ペルセウス」と結婚して幸せに暮らしたそうですから、よしとしましょうか・・・。   反対に母親である「カシオペア」は、大変気の毒なことです。  自分の娘を自慢するあまり、他を傷つけることになってしまおうとは、  想像だにしなかったことでしょう。  まして、自分のした事の解決策として、「自慢の娘」を生贄に差し出すなんて事は、  夢にも思わなかった事でしょう・・。  人というのは自分自身や、自分の持ち物・家族をあまり自慢しない方がいいようです。  自慢するという行為はともすると相手の「劣等感」を刺激したり、  自分自身の「高慢」につながりやすくなりがちです。  かといって、あまりにもへりくだりすぎるのも嫌みな感じがしますし、  この兼ね合いというのが難しい・・・・・。  人によって同じ事の受け取り方が違うという事でしょうか。  「ひとこと一言にも、他を思いやる心を忘れてはならない。」という教訓にも思えてきます。   ところで日本では、カシオペアの「W」を「いかり星」という地方が多いようです。  これは、二つの角を船のいかりの爪と見たのでしょう。   不思議なことに中国ではこの星座は、別の結びかたをしていましたが、  他の地域と同じく、航海用の重要な星だったようです。   アラビア人はWの伏さったMの形を、砂漠でうずくまっている「らくだ」と呼んだり、  また、五つの星を手の指先と見て、はじの星(ベータ)をカフ(手)と呼んでいました。  古くギリシャでは、「ラコニヤのかぎ」といっていました。  その地方でつかうかぎの形と見たのでしょう。   このように同じ「W」でも地域や民族で、とらえ方がずいぶんと異なることがあるようです。  あるひとつの見方にばかり、捕らわれるのではなく、  広い心で物事をとらえる事が肝要ということでしょうか。
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